伝承と創造の場としての美術館活動について語る。
現在、世界の美術館はかつて無い困難に直面している。 その困難は公的助成金の減少、高騰するアートマーケット、ビエンナーレとアートフェアの異常な増加によるところが大きい。 一般公衆は多くの情報に囲まれインターネットを使いこなし、その要求は常に進化しているのであり、そうした要求に応えるには美術館はリニューアルし続け、新しいウイングをオープンし、もしくは新しい聴衆を取り込み刺激する創造的な方策をたてなくてはならない。 美術館のキュレーターは、そうした要求を前にして、いかにコレクションを形成し展覧会プログラムの企画をたてるかの方法論を求められている。 私は現在テルアヴィヴ美術館の館長とチーフキュレーターであり、私の個人的な職業経験は今日の美術館の専門家がかかえる最も重要な課題を共有している。 この講義ではテルアヴィヴ美術館の運営に関する私の理念、私がこの職についてからいかに戦い、いかなることを達成できたかを語りたい。 私は最初イスラエル美術館(エルサレム)の現代美術担当キュレーターとしてキャリアをスタートした。 そこでは国際的現代美術コレクションづくりに携わった。 そのコレクションは広範囲にわたる多くの作品を集めいまや知名度の高いものとなっている。 それらはしかし満足な購入予算もなく実現したものだった。 若いアーティストたちを紹介する展覧会を企画したが、展覧会当時は無名だったが数年をへて認められる、といった作家たちだった。 後に美術全般を担当するチーフキュレーターとなり大規模なイスラエル美術館リニューアル計画に取りかかった。 この講義ではまたイスラエルにおける美術館の特殊な問題にふれたい。 イスラエルの美術館はさまざまな経緯、使命、プログラム、目標をもって運営されイスラエル国内と世界における美術館像を模索している。 四国程度の面積しかないイスラエルであるが200以上の博物館・美術館を有し、現代美術ではパワーを発揮しはじめている。 この講義ではイスラエルでもっとも大きく活動的なテルアヴィヴ美術館、イスラエル美術館について述べたい。 イスラエルの美術館は政府の支援の減少にもかかわらず生き残る事を求め、意欲的な展覧会やプログラムを企画し、世界トップレベルの位置を維持するために戦かい続けているのである。