『アラブ世界における美術館とその役割』

 

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美術館建設ラッシュの湾岸エリア、 激動するアラブとアートの現在について。

20世紀のアラブ世界の美術館は民俗学、考古学もしくは美術コレクションの収集を主たる目的としていた。美術館の多くは植民地時代に設置されたもので、独立後は国のアイデンティティを確立する事がその任務だった。 20世紀の終盤になるとアラブ世界のいくつかの国では民間が文化に関与するようになり、財団を設立し現代美術コレクションの収集に乗り出すようになった。 民間の力で地域のアートマーケットが形成され、アーティストとギャラリーは多くそのマーケットに包括されるようになった。 ところが21世紀にはいると国際化によって世界のアート界に大きな動きが生まれた。地域に限定されていたアートの活動の境界が取り払われ、地域から世界へとその領域を拡大させていくこととなったのである。 こうした時代背景のもと新しい世代の美術館が湾岸地域で生まれつつある。 たとえばアブダビは数年後には真の文化エリアになることをめざし、ジャン・ヌーベルの設計によるアブダビ・ルーブル美術館やフランク・ゲリー設計によるグッゲンハイム美術館のような豪壮な美術館が数館開設される。 またカタールではI.M.ペイの設計によるイスラム美術館が2008年に開館し、ジャン・ヌーベル設計の新しい国立博物館が建設中である。 これらの国における美術館の設置は、理論的にはアート、文化、歴史が根をおろすことを意味せねばならない。 新しい美術館は単なる文化的ディズニーランドに終わってしまうのか、それとも現代アラブ・イスラムの新しいアイデンティティを産み出す場となるのか、それが21世紀に問われている。

ブラヒム・アラウイ

Brahim Alaoui
(フランス国立アラブ世界研究所元所長/フランス)

美術史家、展覧会コミッショナー。 パリ市近代美術館研究員を経てパリのアラブ世界研究所所長に就任。 同研究所で20年にわたり展覧会を企画し研究所の存在を知らしめる事に貢献した。 多くの著作、展覧会カタログでアラブ人現代美術作家の紹介につとめている。 執筆活動と展示活動を通じてアラブ世界の現代美術とヨーロッパならびに世界の美術状況との橋渡しを行っている貴重な人材である。 1999年ヴェネチア・ビエンアーレのユネスコ賞審査員、2000年上海ビエンナーレ審査員など多くの審査員をつとめている。 ユネスコ美術部門評議員、ICOM(国際博物館評議会)会員、国際美術評論家連盟フランス部門会員。 アラブ各国の財団、政府機関で美術館運営のアドバイザーをつとめている。