『批評的キュレーター精神』

 

アジアの文化芸術の「目」となりつつある香港発のアートマネジメントについて語る。

文化マネジメントとは、一般公衆のためにアートを定義、選別、解釈、提供する仲介の行為である。 文化をマネジメントするキュレーターは望まずして一般公衆が芸術と文化を理解することに関し多大な影響力を行使することになる。 その結果文化を仲介する専門家として倫理的な重い責任を負っているのであり、常に思慮深く自己に批評的であり続け、芸術と文化を提供するために使われているヴォキャブラリ、旧来の方法、形式を見直し、吟味することが求められる。 展覧会を企画することを例にあげれば、私の講義はこれまで行われて来た展覧会の形式を分析し吟味する一方で、特定の社会的、政治的、美学的な文脈における文化の提供に際し、批評的に行うためのキュレーションの方法論を作り上げる道筋を示すものである。 また私の講義は香港中文大学の学部、大学院における文化マネジメント課程の教育スキームを、どのようなアカデミックな意図で設定したかについて触れる予定である。 私の講義は文化マネジメント課程がどのように構築されているか、それがどのような思想を有しているかについて説明し、この課程の形成が文化マネジメントの批評的方法論に関するいくつかの思考を反映していること、そして近年新たに開発された学問分野である「Public Humanities(一般公衆への文化の提供)」との関係について触れる。

オスカー・ホー

Oscar Ho
(香港中文大学教授/香港・中国)

サスカチュワン大学で学士号を取得し、カリフォルニア大学デイビス校の修士課程で修士号を取得した後、ドイツ博物館(ミュンヘン)とニューヨーク近代美術館で美術館勤務の経験を積む。 香港アートセンターの展示ディレクター、上海現代美術館の創設ディレクターをつとめ、香港、中国本土、東南アジアのアートの展覧会を多くてがけた。 さらにアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドで多くの展覧会を企画し、第2回と第3回アジア太平洋トリエンナーレ(オーストラリア、クーインズランド)、第1回ハリファックス現代美術展Halifax Exhibition of Contemporary Art(カナダ、ノバスコシア)のゲストキュレーターを務 めた。 またコペンハーゲンで行われた『コンテナ96 大洋を越えるアート』のアジア部門のキュレーターを務めた。 アジア・アート・アーカイブの創設ディレクターの一人であり、アジア・キュレイトリアル・ネットワークと国際美術評論家連盟の香港部門の創設者である。 香港ならびに海外の刊行物(『Art Journal』『Art in Asia Pacific』『Art Forum』『Newsweek』 など)に多数寄稿している。 ドクメンタ13の国際委員としてアートディレクターの選出にたずさわった。 さらに香港のセントラル・ポリス・ステー ション文化地区プロジェクトや西九文化区の新美術館M+の企画にたずさわった。 現在は香港中文大学の文化マネジメント課程(学部ならびに修士過程)のディレクターを務めている。